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月別アーカイブ: 2017年7月

土地評価のグレーゾーン

わが国は法治国家です。

税金の計算は法律の定めに従って算定します。

相続税における土地の評価は、相続税法22条で「時価」によると定められています。

 

しかし、「時価」と定められているだけで、具体的な評価方法は定められていません。

 

時価といっても、不動産屋の査定価格があったり、公示価格や固定資産税評価があったり、不動産鑑定士の評価など様々なものがあります。

 

そこで、国税庁は、相続税の計算のため、簡便的に土地を評価できるように評価基準を設けています。これが路線価です。

道路に路線価(1平方メートルあたりの値段)をつけ、これに地積を乗じて評価額をだします。

 

このようにあらかじめ評価基準を設けておくことは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて、合理的であるとされています。

 

ただし、国税庁の評価基準は、法律ではなくあくまでも行政の内部通達です。

優先されるのは法律です。

したがって、路線価が、法にいう時価の範囲内であれば適法ですが、仮に時価を超えていると判断された場合には、それは違法な評価となると解釈されています。

 

そこで、ある時は路線価が時価であり、あるときはそれ以外の別の評価方法を採用するということになります。これがグレーゾーンです。

そのため、実務ではグレーソーンの解釈(時価がいくらか)が論点となります。

 

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相続税110年の歴史。

相続税は、創設から今年で112年目が経過します。

 

もともと相続税は、1905年(明治38年)に日露戦争の戦費調達のために創設されました。

税金と戦争の歴史は関係が深く、所得税は清国との戦費のため、源泉徴収制度は第二次世界大戦の費用のため導入されています。

諸外国においても、イギリス所得課税はナポレオン戦争のため、アメリカ所得課税は南北戦争のための導入などの背景があります。

 

日本の相続税はそれほど混乱もなく受け入れられたようですが、戸主を失った家族に課税をするのは冷酷だという反発もあったようです。

日露戦争は日本の勝利に終わりますが、結局相続税は戦費の0.1%程にしかなりませんでした。

 

このようにして誕生した相続税が現在の形となったのは、終戦後のことです。

第二次世界大戦後の占領下で財閥解体という政策に結びついて一時最高税率90%にもなり、一部の資産家に富が集中するのを防ぐ役割となりました。

 

相続税はこれまで細かな改正を繰り返してきましたが、導入当初から税収の割合の1~3%を推移してきました。

平成25年において、国税に占める相続税の割合をみると、1.8%となっています。

所得税や法人税があわせて約50%であるのに対して少ない割合となっています。

ちなみに消費税は国・地方あわせて約16%です。

 

課税割合は、平成27年(2015年)に基礎控除の引き下げが行われる以前は4.4%でした。つまり100人に4人に課税が行われていました。

平成27年改正により、課税割合は8.0%となっています。100人中8人に課税が行われる税目です。

 

相続税は、戦費調達のため創設され、戦後は富の集中を防ぐ役割をし、110年の時を経て、財政再建のための一般大衆課税と姿を変えていきます。

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平成27年相続税改正の影響(その3)。税務調査への影響

(7)税収への影響

平成25年度の税制改正大綱によると、今回の改正により、相続税・贈与税では2,420億円の増収が見込まれていました。

これが、実際の国税庁統計をみてみると、相続税の申告税額は、改正前が1兆3,908億円であったのに対し、改正後は1兆8,116億円となっています。4,208億円の増額です。

税制改正大綱は贈与税収も含めていますから、贈与税も考慮すると3,807億円の増額となっています。

2,420億円の見込みでしたが、実際は3,807億円の増額となったわけです。

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(8)税務調査への影響

相続税申告をすると1~2年後に税務調査が入ることがあります。

課税対象となった被相続人に対する実地調査の件数の割合については、平成25年に起きた相続に対する税務調査は21.9%となっています。

今回の相続税の改正の影響がでるのは、平成27年分の申告事案を調査対象とする平成29事務年度の税務調査からとなりますので、現在まだ統計はでていません。

調査件数を今の水準(年間約1.1万件)のままとして予測すると、平成26年分申告に対する税務調査割合は19.6%、平成27年分申告に対する調査割合は10.7%となります。

これまでは、相続税の申告をすると10件に2件の割合で調査が来ていましたが、これが1件となるわけです。

平成27年相続税改正の影響(その2)地域別の影響

(6)地域別の影響

課税割合と納税ゼロ割合を足したもの、つまり相続税の申告を要する割合を地域別にみてみます。

例えば、東京国税局管内における割合は、改正前においては10.4%でしたが、改正後は17.6%となりました。対前年比7.2ポイント増です。

改正後において申告が必要な者の割合は、札幌国税局は5.0%、仙台国税局は4.7%、関東信越国税局は9.3%、金沢国税局は8.0%、名古屋国税局は13.8%、大阪国税局は10.4%、広島国税局は8.1%、高松国税局は7.5%、福岡国税局は5.7%、熊本国税局は4.1%、沖縄国税事務所は7.0%となっています。

全国的に約2倍となりました。

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東京国税局管内では申告割合は17.6%となっています。

意外と高いのが名古屋国税局管内。11.3%です。大阪や関東信越を押さえて2番目に高い数値です。

 

平成27年相続税改正の影響(その1)申告割合は10.3%へ

(1)改正の内容

平成27年1月1日から相続税は増税となりました。

相続税の計算上、基礎控除と呼ばれるものを遺産の額から控除します。

改正前の基礎控除は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でしたが、これを4割減し、「3,000万円+ 600万円×法定相続人の数」となりました。

 

(2)改正の影響

夫婦と子供2人のように相続人が3人のケースでは、不動産と金融資産で4800万円以上保有していると申告義務が生じます。

父がすでに他界しており、子供1人が相続人のケースでは3600万円がボーダーです。

東京で例えば路線価が1㎡あたり20万円前後の戸建てを所有し、金融資産を2000万円など持っていればすぐ基礎控除を上回ります。

地方でも路線価が1㎡あたり10万円前後で金融資産を2000万円など持っていれば基礎控除を超えてきます。

今回の基礎控除の引き下げは影響の大きなものと予測されていました。

 

(3)改正の趣旨

今回の改正は、①バブル期以後の相続税収が減少傾向にあること、②相続税が所得税や法人税、消費税などほかの税目と比べて税収が少ないこと、③近年の税制が格差是正のために富裕層への課税強化の傾向にあること、④相続税の課税割合が4%程度と低いことなどもあり、この課税割合を6%程度にしたいというのが趣旨でした。

 

(4)改正前後の課税割合

相続のあった事案について、課税対象となった被相続人の割合は、改正前は4.4%でした。バブル崩壊以降、ずっと4~5%台を推移してきました。

これが改正後は、前年度比1.8倍の8.0%となったのです。

100人亡くなると8人は相続税の納税が生じるわけです。

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この被相続人の数には、0歳からの死亡者数が含まれています。

そこで、資産をもっている年齢層で考えると、もっと課税割合は多いはずだと思う方もいるはずです。

しかし、平成26年の統計ではありますが、被相続人(死亡数)1,273,004人のうち、60歳以上で92.58%(1,178,566人)を占めています。

おおよそ被相続人=60歳以上の資産を持っている層と考えてよさそうです。

 

(5)納税ゼロ事案の割合

相続税は、配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例を適用すると、納税がゼロとなるケースにおいても、特例を使わなかった段階で基礎控除を上回ると、ゼロ円での申告が必要となります。

(4)の課税割合に納税ゼロの割合も含めると改正前は5.7%でしたが、改正後は10.3%となりました。

つまり、亡くなると10人に1人は相続税の申告が必要となったのです。

広大地と精算課税を適用した駆け込み贈与。

広大地補正が平成30年より改正されようとしています。

広大地が適用できる土地は、今よりも減税となるケースもありますが、基本的には増税となります。

そこで、平成29年中に精算課税制度を適用して広大地を次世代に贈与します。

精算課税制度は、現行広大地を適用した「贈与時の価額」が、将来の相続の際に加算されるからです。

 

ただし、精算課税の申告をした後に、広大地が否認されて、特別控除額(2500万円)を超えた場合には、超えた分の20%の納税が必要なこと、

精算課税制度を一度選択すると、その後の現金や株式などの生前贈与もすべて将来相続の際に累積して加算されること、

相続のときにやっぱり違う人が相続したかったという変更がきかないこと

に注意が必要です。

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